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第九類 歯車及び歯車装置 Gear and Gearing.

歯車は機械に多く使用せられその種類甚だ多く又多様なり。接近せる両軸の運動伝達に用られ回転速比一定なり。歯形の不完全なるもの又は高速回転する歯車は騒音を発するにより歯を機械切にするを可とす。歯を研磨せるマック・ギヤあり。殊に強力を伝えるものには軟鋼製炭素ムシ焼入とするかもしくは特種鋼を使用す。騒音減殺の目的にてベークライト、生皮、木製の歯車も使用さる。

170. 平歯車 Spur Wheel.

図. 平歯車

真鍮、軟鋼、鋳鉄、皮、ベークライト、木製等を普通とす。真鍮、鋳鉄製には鋳放しのものあれども運動正確にして騒音少なきを以て他製と同様に機械切を可とす。

171. 平歯車各部の名称

図. 平歯車各部の名称
  1. 歯頭 top. トップ
  2. 上腹 Face. フェース
  3. 下腹 Flank. フランク
  4. 長あるいは高さ Length or Heigt.
  5. 厚 Thickness.
  6. 歯の間隙 Space. スペース
  7. 刻み Pitch. ピッチ
  8. リム Rim.(別名)ウェブあるいはクラウン Web, Crown.
  9. 腕 (別名)スポーク Arm, Spoke.
  10. ボス Boss.(別名)ハブ Hub.
  11. 軸穴(別名)アイあるいはボーア Eye, Bore.

甲. アデンダム線(歯先線)Addendum Line or Face Line.

乙. ピッチ線あるいは刻み線 Pitch Line.

丙. デデンダム線(歯本線)Dedendum Line or Root Line.

2, 3 の横幅を歯の幅 Breadth.

(註)刻み線の円弧に沿って歯と歯の距離を計りたる弧を弧刻ミ Circular Pitch と言う。刻み線(乙)の直径にて歯数を除したる商を直径刻み Dametral Pich と言う。

172. 平歯車列 Train of Spar Wheels.

図. 平歯車列

動者 1 は中移歯車 2, 3 によりて被動者 4 を回転せしむ。歯車の相違大なる平歯車の組合において小なる平歯車を小歯車(ビニョン)Pinion. と言う。

(註)歯の間隙と厚との差をガタ Back lash or Clearance と言う。刻み線以上半径方向の歯の高さを歯先と言い刻み線以下歯底を半径方向で示せる長を歯本と言う。

173. 傘歯車(べヴェル・ホイール)Bevel Wheel.

図. 傘歯車

普通型のものは軸線が同平面にありて且直角なる両軸に取付けられて動力伝達を為す。図示 3, 4 の如く同大の組合を特にマイター・ホイール(半直角傘歯車)Miter Wheel と称す。

平歯車は円柱表面に沿って歯を刻みたるものなるが傘歯車は円錐表面に沿って歯を刻みたるものなり。

174. 柄孔傘歯車(傘植歯車)Bevel Mortise Wheel.

図. 柄孔傘歯車

粗製の傘歯車は回転速やかなれば騒音を発す。之を減殺するために 2 の如く木製歯を値えて金属製傘歯車 1 と組ます。

175. ポインテッド・ギヤ Pointed Gear.

図. ポインテッド・ギヤ

歯の形状宝珠に似て専ら軽き運動(力を多く要せざる)に使用せらる。今は全く使用せられず。

176. 芋虫と芋虫歯車 Worm and Worm Wheeel.(其一)

図. 芋虫と芋虫歯車1

芋虫の一回転は芋虫歯車 2 の歯一枚(普通設計のもの)を送るにより両者の回転速度甚だしく相違す。本図に示すものは両者の接触面小にして且接触運動長きにより摩擦作業大にして不利なり。この種の機構は一般に 2 が 1 を廻すこと能わず。軸 1 が軸 2 と直角ならざる場合にも本機構に似たるものを作り得。之を食違い芋虫(スキュワーム)と称す。

177. 同(其二)

図. 芋虫と芋虫歯車2

芋虫歯車 2 は薄き板にして歯形は円のインボリュート曲線より成り芋虫 1 が之に組む。

芋虫 1 の軸と芋虫歯車 2 の軸距離が更に少しく離るるも速比一定なる特性あり。

178. 同(其三)別名ヒンドレー・ネジと鋸歯車 “Hindley” Endless Screw and Wheel with Triangular Teeth.

図. 芋虫と芋虫歯車3

米人ヒンドレーの発明にして前二者と同一作用を為すがネジ 1 が 2 の多数の三角形の歯と組むにより大なる力を伝えるに適し且その運動滑かなること他の及ぶ処に非ざれども製作甚だ困難なり。

179. 同(其四)

図. 芋虫と芋虫歯車4

(176), (177) は点を以て接触するにより大なる力を伝達するには接触の油を押出して注油の効を失い摩滅を大ならしむるが本機構の如く芋虫と芋虫歯車と線接触を為すものは上述の欠点を除去し得。起重機、水圧機等に用いらる。

180. 芋虫と面歯車 Face Wheel and Worm.

図. 芋虫と面歯車

円板 2 の周囲より数多の歯 4 を面に突き出し之に芋虫 3 が組む。芋虫と芋虫歯車の幼稚なる形なり。然れども製作容易なれば動力の甚だ少なく且粗末なる作業に利用せらる。

181. 双曲線組合

図. 双曲線組合

1, 2 は軸が斜交せる(双曲線体)にして両者は直線にて相触る。この接触直線を母線(Generating line)と称す。即ち 1, 2 は其軸の周囲にそれぞれ母線を回転して生じたる曲面にして接触回転を為す。因て相組む部分を各軸に直角に輪切に為し其の母線に沿って歯を刻める歯車を造る。之をスキュー・ベヴェルと称す。(198 甲), (253) 及び巻首挿図を見よ。

182. へリカル・ギヤ(其一)Helical Gear.(斜向歯車)

図. へリカル・ギヤ

ここに甲、乙二個の平歯車が組合いたる場合を考え之を連に直角に且同幅に四等分し之を同じ割合にズラして後一体とす。ただし甲は右ネジに乙は左ネジ形にす。この歯車は運転甚だ滑かなり。何となれば重ね歯の内種々の点の接触あればなり。之を四段ズリ歯車と称す。更に等分の数を増大して遂に無限大に考え及ぶときは歯車の歯は滑かなるネジ歯となる。之即ち平歯車の歯(厚さなき平面)をネジに沿って動かして生ずる歯なり。両者は甚だ平滑に音少なく回転するにより高速伝動に用いらる。英人フック Dr. Hooke の発明なり。

183. 同(其二)

図. へリカル・ギヤ

上図は両軸が少く離れ且直角なる場合、下図は斜交する場合、両車はネジ形の歯車にて回転を伝え得。1 は 2 を回転し 2 は 1 を回転し得るが角度の如何によりては 2 は 1 を廻す能わず。(176) を見よ。

車にネジ形歯が一周するもの((176) ないし (180) の如き)を芋虫 Worm と称し、車の歯が数多のネジ歯より成りその何れも一周せざるもの((182) ないし (184) の如き)をヘリカル又はスパイラルギヤ(捩れ歯車)Helical or Spiral Gear と称し、両者を総称してネジ歯車 Screw Gear と称するを専らとす。

184. 二重ヘリカル・ギヤ Double Helical Gear.(複斜向歯車)

図. 二重ヘリカル・ギヤ

(182) の如く一重傾斜なれば軸の方向に推力を生ず。之を相殺するために図の如く左右二重の傾斜歯車とす。強力を伝えるに用いる。この種の変態として二重曲の代わりに波形のものあり。本図の如く機械切りにせし複斜向歯車をウェスト・ギヤ West’s Gear と言う。ただし軸に対する歯の傾斜角度は 23° を通例とす。

185. 内向歯車とピン車(アンニュラー・ホイールとピン・ホイール)Annular Wheel and Pin Wheel.

図. 内向歯車とピン車

円板 1 の面に短きピンを植えこれらが内向歯車 2 の歯と組みて動力を伝う。両軸は並行なり。一般にピン車はピン・ラック (188) と同様軽き作業にして製作費少きを欲する場合に用いられメートル類、玩具等に応用せらる。

186. 輪形ピン車と小歯車 Annular Pin Wheel and Pinion.

図. 輪形ピン車と小歯車

二枚の輪形板を側板としその間にピン 3 を梯子の如く取付く車を輪形ピン車と称す。この側板に挟まるる小歯車が之と組む。両軸は並行なり。本図の 1 と (185) の 2 と組むものが普通の形なり。

187. ラックと小歯車 Rack and Pinion.

図. ラックと小歯車

小歯車 1 の回転はラック 2 に直線運動を与う。反対にラックの往復動は小歯車を左右に廻す。本図に示すものはラックと小歯車の普通の型にして (188) 及び (189) はその変形なり。 歯車 1 を (176) の芋虫に代えて芋虫とラックを得。

188. ピン・ラックと小歯車 Pin Rack and Pinion.

図. ピン・ラックと小歯車

二個の細長き板 2 を並行に置き且適当の距離に丸棒 3 を梯子の如く取付くるものが小歯車 1 と組む。(187) と同作用なり。

189. ラックとピン車 Rack and Pin Wheel

図. ラックとピン車

二枚の円板 1 を側板とし之に数多のピン 5 を取付く之をピン車と称す。ラック 2 が之と組む。(187) と同作用なり。

190. 小歯車と二ラック Two Racks and Pinion.

図. 小歯車と二ラック

左右の並行せるラック 2 及び 3 はそれぞれ小歯車 1 と組む。ハンドル 4 は小歯車 1 と共に回転す。ハンドル 4 を左右に振るときはラック 2, 3 は上下運動を為す。小形ポンプ等に応用せらる。

191. 丸棒ラックと小歯車 Circular Rack and Pinion.

図. 丸棒ラックと小歯車

ラックを鍔付丸棒に変形し之に小歯車 2 が組む。この丸棒ラックは直線運動を為しつつ回転自由なれば特種作用の機械部分に用いられ得。

191.1 斜歯ラック

図. 斜歯ラック

2, 3 は軸線と斜めにラックを刻む。2 は異なる方向に 3 を動かす。

192. (左)扇形歯車とラック Sector Gear and Rack.(右)扇形歯車とピン・ラック Sector Gear and Pin Rack.

図. 扇形歯車、ラック、ピン・ラック

ラックの左右住復動は扇形歯車を振動せしむ。反対に扇形歯車の左右の揺動によりてラックは左右往復動を為す。(191) を変形して丸棒ラックと扇形ビニョンを得。

193. 扇形歯車とラック Sector Wheel and Rack.

図. 扇形歯車とラック

扇形歯車 5 の上尾に穿てる溝 4 に円板クランク 2 より突出するピン 3 が入る。軸 1 の回転はラック 6 に往復運動を与う。1, 2, 3, 4 が早戻り運勤((66) を見よ)なるによりラック 6 を刻めるロッド 7 は早戻り運動を為す。

194. ピン面歯車 Pin Face Wheel.

図. ピン面歯車

傘歯車と同作用を為す重要なる機構なりしが今は全く用いられず。旧式歯車に属す。然れども製作工費少なければ軽き仕事には用いて利あらん。玩具等に適す。

195. 溝付小歯車とピン車 Slotted Pinion and Pin Wheel.

図. 溝付小歯車とピン車

キー付水平軸 1 の貫通する小歯車 3 はイ, ロ, ハ列に配列するピン車と組む。故に 4 が動者なるときは被動車 3 は三様の速度に回転せらる。

196. 旧式歯車(其一)

図. 旧式歯車1

1 は輪板面に数多のピンを突出たるピン面歯車。2 は円板の周囲に歯を刻める円板歯車、3 は筒形の輪の縁に歯を刻める冠歯車、5 は木製円輪に木歯を植えたる木製植歯車、4 は両円板を貫きて数多のピンを列ねたる提灯車(ランターン・ホイール)Lantern Wheel なり。

197. 同(其二)

図. 旧式歯車2

甲図はピン面歯車 1、同 2、木製植歯車 3 の組合。 乙図は木製平歯車 1 と木製内向歯車 2 の組合。丙図は提灯車 1、ピン面歯車 2、傘歯車 3 の組合。丁図は木製扇形車 2 と木製提灯車 1 の組合にして軸が斜なり。

198. 同(其三)

図. 旧式歯車3

甲図は其の軸線相交わらざる二軸の傘歯車((253) を見よ)。之を食違い傘歯車と言う。乙、丙図は其の軸線が同平面上にありて且直角を為さざる二軸を廻す傘歯車。丁図はビニョン 1 と冠歯車 2 の組合。甲、乙、丙図何れも木製なるが丁図は金属製なり。乙図において両軸が殆ど一直線を為す場合には丁図の 2 の如き歯車が組む形となる。之を特に冠歯車 Crown Wheel と言う。粗なれども廉価なるにより玩具等に用いらる。

199. インボリュート歯車

図. インボリュート歯車

図示のものは円のインボリュート曲線を歯形とする歯車の組合。両者の中心距離少しく変ずる連比が一定の特性あり。故に両軸の距離が少しく変化する場合にこの歯車を用いて連比一定にて伝動し得。時計、メーター、工作機械類多くこの種の歯車を用いる。

200. マールボロー車 Marlborough Wheel.

図. マールボロー車

平歯車 1 は中移平歯車 3 を廻し之が平歯車 2 を廻すにより甚だ接近せる並行軸に多大の動力を伝達し得。3 を用いずして直接に両軸に平歯車を取付けて互いに組ますときは動力に比較して歯が弱くなる。本機は初めて紡績機のローラー・フレームに応用せられマールボロー車とは英国の方言なりと言う。

201. 扇形圧縮機(セクトル・プレス)Sector Press.

図. 扇形圧縮機

ハンドル 4 を右廻するときは小歯車 3 は扇形歯車 2 を左廻し台 8 は上りて 8, 9 の間の品物を圧縮す。15 が垂直に近づくに従い圧縮力強大となる。扇形車の僅小の回転角を小歯車 3 の回転角に拡大して用いる場合あり。之を扇形歯車と小歯車と言い圧力計等に其の応用を見る。

202 マングル・二重ラックと欠歯提灯車 Mangle Double Rack and Semi-lantern Pinion.

図. マングル・二重ラックと欠歯提灯車

欠歯提灯車とは軸 1 に直角に取付けられたる二個の円板の間にピン 14, 15, 16, 17 等を貫通せる欠歯ピン車にして其一回転によりラック 2 は左右に往復運動を為す。歯 4, 4 はピン 14 が運動の始めに掛り易からしむるため長くする。

203. 正転逆転中止仕掛

図. 正転逆転中止仕掛

3, 4 はその位置において軸 1 の上に回転し得る傘歯車。5 は軸 2 に固定する傘歯車。8 はキーと溝によりて軸と滑りツガイを為し且 6, 7 とそれぞれクラッチを為す。軸 1 が回転する時 8 を右に移さば 4, 5 が軸 2 を回転せしむるが 8 を左に移さば 3, 5 が軸 2 を逆回転せしむ。8 を図の如く中央に置かば軸 2 は回転せず。2 が動者となり 1 が被動者たるも差支なし。

204. 逆転装置 Reversing Gear.

図. 逆転装置

調車 4 と傘歯車 4 は軸 3 にキー止し調車 7 は遊動す。調車 6 と傘歯車 6 は管軸にて連結一体を為して軸 3 上に遊動す。ベルト 8 の図示の位置にては軸 1 の回転は 7 を空転せしむるのみ。ベルト 8 を右に寄するときは調車 4 が被動せられ左側の傘歯車 4 は軸 2 を回転せしむ。ベルト 8 を左に寄するときは調車 6 が被動せられ傘歯車 6 は前と逆方向に軸 2 を回転せしむ。

205. 早戻り運動 Quick Return Motion.

図. 早戻り運動

10, 12, 11 は (204) の調車 6, 7, 4 と同一なり。

ベルトが 12 に掛かるときは 12 は軸 1 上に空転す。ベルトが 10 に掛かるときは回転は 3, 4, 8 の順序に伝わり 8 はラック 9 を手前に退かす。ベルトが 11 に掛かるときは回転は軸 1 より歯車 5, 6, 7, 4 の順序に伝わり 8 はラック 9 を紙裏の向に前進せしむ。ラックの前進は遅く後退は速なれば早戻り運動の名ありて平削機に応用せらる。

206. ロガリズミック・ホイールと傾斜ラック Logarithmic Wheel and Inclined Rack.

図. ロガリズミック・ホイールと傾斜ラック

車 2 は中心 1 なる対数曲線(あるいは等角曲線)を左右より合せるもの。波形ラック 3 が垂直線と為す角は曲線の接線と動径との為す角に等し。車 2 は波状ラックと滑り無く接触し得。故に両者に之を刻み線となして歯を刻めばハート形車 2 と波形ラックを得。

207. 旋盤のネジ切装置

図. 旋盤のネジ切装置

3 は旋盤の親ネジ、4 は刃物台、10 は刃物、9 は切るべきネジ。8, 7, 6, 5 は換歯車。

切るネジの毎時山数 = [(親ネジ毎時山数)×(5の歯数)×(7の歯数)] / [(6の歯数)×(8の歯数)]

208. 滑り子クランクと芋虫車の組合

図. 滑り子クランクと芋虫車の組合

芋虫 2 の回転は芋虫車 3 を回転せしめその面に突出せるピン 4 が連桿 5 によりて滑り子 6 を動かす。芋虫 2 の回転モーメンは滑り子における強大なる力を生ぜしむ。殊に 4 点が死点に近づくとき基だ大となる。圧縮機類に応用せらる。

209. 二様の速度に回転を伝える仕掛

図. 二様の速度に回転を伝える仕掛

動軸 1、中移軸 2、被動軸 3 は並行軸にして調車 8, 10, 9 の構造は (204) と同一なり。ベルト 13 が図示の位置 9 に掛かるときは歯車 4, 5 によりて軸 3 は遅く回転す。ベルト 13 が 8 に掛かるときは歯車 6, 7 によりて軸 3 は速に回転す。ベルト 13 が 10 に掛かるときは 10 は非役車なれば軸 3 は回転せられず。

210. 三様の速度に回転を伝える仕掛

図. 三様の速度に回転を伝える仕掛

歯車 5, 6 と調車 15, 16 はそれぞれ管軸にて一体と為る。ベルト 9 を 14 に掛けるときは歯車 4, 4’ によりて軸 3 は最も遅く回転し 16 に掛けるときは 6, 6’ によりて軸 3 は最も速く回転す。而して 8 に掛ければ軸 3 は回転せず。

211. 自動逆転運動 Self-reversing Motion.

図. 自動逆転運動

1, 2 は傘歯車の組合。3 は傘歯車 1 の裏面に突起するピン。4, 5 はベルクランク。7, 9 は同軸に固着するテコ。傘歯車 14, 15 は水平軸 17 上に遊動す。クラッチ 10 はキーと溝により軸 17 と滑りツガイを為す。傘歯車 16 は紙面と直角なる動軸に取付け られて 14, 15 と組み常に一定方向に回転す。図示の位置においては 16 は 15 と組合いて軸 17 を回転し 1 を矢の方向に回転す。而してピン 3 がテコ 4 に突き当り之を押すときはテコ 9 はまず 15, 13 の組合を外づす。然れども回転の情勢はなお左に 10 を進まして 12 と噛ましめ 16 は 14 を回転し 1 を前と逆方向に回転せしむ。而して 3 が 4 を右方より打ちて 10, 12 の組合を外して再び 10, 13 を掛ける。斯くして自動逆転運動を継続す。

212. 換歯車(チェンジ・ホイール)Change Wheels.(其一)

図. 換歯車

1 は動者、2 は被動者なり。テコ 4 にて軸 1 を移動して歯車を組合せ以て五様の速度に伝動し得。図中各歯車の数字は歯数を示す。自動車、旋盤等に応用せらる。

213. 写取り旋盤 Copying Lathe.

図. 写取り旋盤

1, 2, 3 はその位置にて回転する歯車。台 10 の上を滑動する滑台 9 は常に左に曳かれその両腕は同じ高さにして左にはトレーシング・ホイール 5 ありて右には回転刃物 7 あり。この刃物の描く図形は車 5 の外形と等し。5 と 8 の軸距離は両軸 1, 3 の距離に等し。刃物 7 を速に回転せしめ且歯車を遅く回転せしむるときは材料 6 は 4 と同一の形及び大きさに創られ得。例えば小銃台尻の木工細工に応用せられ 7 は毎分二千回転を為すと言う。

214. 錐送り仕掛 Feed Motion of Drill.

図. 錐送り仕掛

テコ 7 の右端と蝶番せらるる鍔 6 は軸 2 と回りツガイを貸す。傘歯車 4 はキーと溝 3 によりて軸 2 と同時に回転するが軸の上下動は自由なり。傘歯車 5 によりて軸は回転するがテコ 9 は之を上下し得。

215. 逆転装置 Reversing Gear.

図. 逆転装置

1 は其の位置にて回転する中空軸。2, 3, 3 は其の位置にて廻る傘歯車。5, 6 はキー 7, 9, 8 によりて軸 1 と共に回転するが上下動は自由にしてそれぞれ 10, 11 とクラッチを為す。1 を動者、4 を被動者とす。図示の位置にありては軸 1 の回転は軸 4 に伝わらず。5, 6 が下方に動くときはクラック 10 は組合いて軸 1 は上の 2 と 3 を経て軸 4 を廻すが 5, 6 が上方に動くときはクラッチ 11 は噛み合いて軸 4 は前者と逆の方向に廻る。水車の調速機等に応用せらる。

216. 龍頭巻仕掛(其一)Mechanism of a Keyless Watch.

図. 龍頭巻仕掛1

龍頭 1 を左図のまま上より見て右に廻す時は歯車 2 は歯車 6, 7 を廻す。突起 8 を押込むときは右図の如く 2, 3 の噛合が外づれ 2 は空転し冠歯車 4 は歯車 5 と組む。依て龍頭 1 は歯車 5 を廻す。歯車 5 の軸は時計の分針の軸なり。左図にて 1 を矢と反対に廻すときはクラッチ 2, 3 は滑りて 3 の回転は 2 を廻す能わず(第十七類参照)。

217. 同(其二)

図. 龍頭巻仕掛2

図の位置において龍頭を廻せば左側の歯車が廻され之によりて懐中時計の巻バネを巻く。右肩の突起を手指にて押さば左側の歯車は外れて右側の歯車が組むにより龍頭を廻せば中央の分針の取付く軸の小歯車を廻し得。この小歯車は分針と同軸なり。

218. 時計の時針と分針(短針と長針)Minute and Hour Hand of Clock.

図. 時計の時針と分針

8 は八枚の歯、42 は四十二枚の歯を有する平歯車にして何れも軸 1 固定す。平歯車 28 は二十八枚の歯を有し長針 4 と共に軸 2 に固定す。平歯車 64 は六十四枚の歯を有し時計 3 と同一体を為し且つ軸 2 上に遊動す。

速比=時針の速度/分針の速度=(28×8)/(42×64)=1/12

219. 時計仕掛 Clock-work.

図. 時計仕掛

本図は普通型柱時計の構造と示す。

戊己は逃し止にして (480) に詳し。振子甲の各一振動毎に己の歯一枚ずつ送り一分間に己は一回転す。

各平歯車はその数字にて表わせる歯数を有す。秒は秒針、分は分針、時は時針なり。

速比=分針の速度/秒針の速度=(8×8)/(60×64)=1/60

即ち秒針の六十回転に対して分針は一回転す。

分針と時針の速比及び之に図解せる歯車は (218) に説けり。分針軸の二十四回転はドラム丙を (8×24)+96=2. 二回転せしむ。故に一週間巻きには丙を約十四回以上(普通十六回)巻く。錘乙の巻き下がりと振子甲の振動によりて各部分は運動す。

219.0. 小歯車

図. 小歯車

平歯車 1, 2, 3, 4 は同軸 9 に固定し 5 は並行軸 8 とキーとキー溝かあるいは角孔と角棒の組合によりて、滑り子ツガイを為す。5 と組む間車 6 は 1, 2, 3, 4 の何れか一つと組むことにより両軸 8, 9 の速比は四段に変えられ得。

219.1. 小歯車にて傘歯車と右あるいは左に廻す装置

図. 小歯車にて傘歯車と右あるいは左に廻す装置

左右に小歯車 31, 32 を有するスリーブ 3 はキー 2 とキー溝によりて軸 1 と共に回転するが軸方向に動くは自由なり。図においては右小歯車 31 が傘歯車 4 を廻すが 3 を左に滑らして左小歯車 32 を 4 に掛ければ軸 5 は前と反対に回転す。歯の噛み易き為に左側上図に示す如く歯先を尖らす。

219.2. 過負荷における芋虫車の安全装置

図. 過負荷における芋虫車の安全装置

芋虫 2 は軸 3 と同時に回転する滑りツガイ((40.3), (40.4) を見よ)を為し 4 は圧縮バネなり。2 が 1 を廻すとき抵抗過大となればバネ 4 に抗して芋虫車は右に寄り車より外づれ之によりて歯の破損を免がる。