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第十九類 ジェニーバ・ストップ Geneva Stop. 及び之に類する機構

この種の機構は一軸の連続回転を間欠的に他軸に伝うものなり。初めて時計のバネ巻装置に応用せられたるを以てその製造地スイス国ジェニーバ市の名を冠せり。而して以後類似の機構にもこの名を与えたり。映像のフィルムを送り装置及び錠等に応用せらる。

470. ジェニーバ・ストップ(其一)

図. ジェニーバ・ストップ1

ピン 3 の突出する円板 5 に欠円板 1(中心 3 の円弧に欠く)を重ねて同軸 1 に取付く。1 の円周部がヒレ 4 に触れつつ廻る間は 2 は静止するがピン 3 が 4, 4 間の溝に入るや 2 はヒレ一枚だけ廻されて(之を送ると言う)次のヒレ 4 が 1 の円周に触る。即ち軸 1 の一回転において 2 は長時間静止し短時間に歯一枚だけ送らる。もし 2 の歯間に一ヶ所溝なき個所を造るときはピン 3 とその部分と衝突するまで廻るもそれ以上は廻らず。この仕掛を懐中時計のバネ巻き止装置に用いたり。

471. 同(其二)

図. ジェニーバ・ストップ2

1 が回転中その円弧部分が 2 のヒレ 4 に触るる間は 2 は静止するもカム 3 が 4, 4 間の切欠部に入るや 2 は歯一枚だけ送らる。

472. 同(其三)

図. ジェニーバ・ストップ3

1 の一回転中カム 3 が 4 の切欠部に入るときのみ 2 は被動せられてヒレ一枚だけ送らるるがその他は静止す。(471) の変態なり。

473. 同(其四)

図. ジェニーバ・ストップ4

(472) の変態なり。歯車 2 の山形の歯も 4, 4 が 1 の円周部を挟む間は 1 が廻るも 2 は静止するがカム 3 が歯 4 に触るる短時間に 2 は歯一枚だけ送らる。

474. 同(其五)

図. ジェニーバ・ストップ5

1 の回転中その円周部がカム 7 の左端 6 に触るる間は右端 8 はピン 4, 4 の間に食い込みてピン車 2 の回転を防ぐ。カム 3 が 4 に触れ之を動かさんとするに当たり 6 は切欠部 5 に落るによりピン車 2 はピン一本だけ送られ 3, 4 が外づるる際は 6 は 5 より出でて再び 1 の円周部に触るるに至りこの間 2 は静止す。

475. 同(其六)

図. ジェニーバ・ストップ6

特種構造を示す。円板 1 の周は 4 の如く縁付けられカム 5 の両側が切欠かる。円板 3 には八個のピン 3 が出でその長は円板 1 の下を通過し得る程度なり。1 の一回転に 2 をピン一本ずつ送る。

476. 同(其七)

図. ジェニーバ・ストップ7

2, 3 はピン車にして軸 5 と一体をなす。5 の並行軸 1 に取付く円板 9 の 4 は円板の一ヶ所が半径方向に切り取られて溝を為しピン 7 が之に入り得。又 9 と一体をなす指 6 はピン 8 と組みピン 7 が溝 4 に向うときに 6 が 8 を押す様に仕組む。9 が矢の方向に一回転するときはピン車 2, 3 は八分一回転で送らる。ピン車 2 に右廻りするモーメントが加わる場合は 6, 8 の組合を要せず。

477. 同(其八)

図. ジェニーバ・ストップ8

本図も亦ジェニーバ・ストップの一設計なり。動者 1 の円弧と 2 の魚尾形カムの接触が外づるるや三枚の歯が噛みて 1, 2 は共に廻り再び 2 が静止す。即ち 1 の連続回転に対して 2 は間欠運動をなす。

478. 同(其九)

図. ジェニーバ・ストップ9

車 1 の四回転に対して車 2 が間欠的に四回休む一回転をなす。本図は被動車の魚尾片の数少なき場合の例なり。

479. アメリカン・ワインディング・ストップ American Winding Stop.

図. アメリカン・ワインディング・ストップ

歯車 3 は十枚、歯車 4 は十二枚の歯数を有す。左側の歯車 3 を矢の方向に六回廻すときは右側の歯車 4 は五回廻りて両者に付属するカム 1, 2 が衝突して回転し能わざるに至る。即ち歯車 3 の最大回転限度は六回なり。両者の歯数を変ずる事によりて回転限度を種々に変じ得。

479.1. 逆転ジェニーバ・ストップ Inverse Geneva Stop.

図. 逆転ジェニーバ・ストップ

円板 10 の中心 2 より放射する三条の溝 5, 6, 7 あり。クランク 1 のクランク・ピン上を廻るコロ 3 が之を緩み少なく通過し得。軸 1 の連続三回転は三回の休息をなす一回転を円板 10 に与う。1, 2 が同一方向に廻るにより逆転ジェニーバ・ストップの名あり。

479.2. 同(其二)

図. 逆転ジェニーバ・ストップ2

上者と同様の設計にして円板 10 の面は四条の放射溝 5, 6, 7, 8 あり。軸 1 の連続四回転は円板 10 に四回休息する一回転を与う。

479.3. 同(其三)

図. 逆転ジェニーバ・ストップ3

1 の連続三回転は 2 を一回転せしむるがその間三回休息す。(479.1) と比較して異形なり。

479.4. 同(其四)

図. 逆転ジェニーバ・ストップ4

4 ないし 11 は車 2 の輪周の放射状溝なり。紙面の前にある固定軸 1 のクランク・ピン 3 は 4 に入りて左廻し車 2 を左廻して 4 を 5 の位置に移し之より 3 が抜け出で θ だけ回転する間は車 2 は静止す。斯くして 1 の連続八回転は八回休息する一回転を 2 に与う。

479.5. 歯車と円板クランク・ピン

図. 歯車と円板クランク・ピン

2 は頭丸歯車にして 3 は軸 1 に取付く円板 4 より突起するピンなり。

4 の右一回転は歯 5 を一枚送る。その一枚ずつを正しく送る為にバネ 6 が二枚の歯を押える。

479.6. ピン車とカム車

図. ピン車とカム車

カム車 1 は縁付円柱にしてやや並行な斜路 5, 6 を有す。2 はピン車にして 1 の矢示の回転においてピン 3 は溝 5 に吸込まれ同時にピン 4 は溝 6 より吐出さる。斯くして後ピン 5 が 1 の円柱溝を通過する間車 2 は静止す。1 の回転によりて車 2 はピン間だけ送られて後は静止す。